Blog
ブログ
アクアエクササイズ
慢性呼吸器系疾患におけるアクアエクササイズは有効か?
2022.04.15
(一社)日本生活習慣病予防協会(2022)の統計によると、日本人の40歳以上の慢性閉塞性肺疾患(COPD)の有病率は8.6%、推計患者数は530万人とされており、COPDの年間医療費は1,447億円であったことが報告されています。このような状況下において、少しでも生活の質(QOL)を向上させるために積極的なエクササイズ方法の導入は急務であると考えられます。
そこで、今回の研究は、慢性呼吸器系疾患に対するリハビリエクササイズに関するレビューです(Armstrong & Vogiatzis, 2019)。特に、慢性呼吸器系疾患に対する効果的な個別のエクササイズについて、先行研究を用いて検討しています。比較された個別のエクササイズは以下の通りです。
慢性呼吸器系疾患に対するトレーニングのプロトコルは以下の通りです。
トレーニング期間:7~12週間以上
トレーニング時間:30~40分間
トレーニング頻度:1週間に3~5回
トレーニング強度:持久力トレーニングにおいては、中程度レベル(最大努力の50~70%程度)に設定する。
負荷の漸進度合:ボルグの主観的運動強度(RPE)の指標を用いて、下肢の疲労度や呼吸困難度のRPEが4~5に設定する。
エクササイズ方法:水中での前方ウォーキング、後方ウォーキング、マーチング(もも上げ)、サイドステップ、クロスオーバーステップ(下図を参照)
特に、アクアエクササイズに焦点をあてて、どのような効果が期待できるかを報告します。長年にわたりリハビリのオプションとしてアクアエクササイズが用いられ、水中に浸水することで胸壁の圧力が増大し、その結果心臓血管系の機能が向上することが報告されています。新たなエビデンスとして、COPDを持つ人にとって、アクアエクササイズは安全に実施できる方法として提唱されています(McNamaraら2013)。アクアエクササイズは、水の浮力によって筋や関節に余分なストレスをかけることなく陸上でのエクササイズと同様の効果をもたらし、さらにはバランスや歩行能力を促進させます。また、COPDを持つ人にとって、アクアエクササイズは静水圧による生理学的効果をもたらすことも指摘されています。水中に浸水した際の静水圧は、呼気を促進し、それによって運動中の空気の閉じ込め度合を減らすことができます。水中に部分的に浸水した場合でも、COPDを持つ人の機能的残気量が約54%減少し、呼気予備量は75%減少することが示されています。
慢性呼吸器系疾患を抱えている人は多く、陸上でエクササイズが困難な場合には、水の環境であればできる場合も多々あります。まずは主治医に相談して、QOLを向上させるためにも一度アクアエクササイズを試してみてはいかがでしょうか?
参考文献
Armstrong M & Vogiatzis I. Perfonalized exercise training in chronic lung disease. Respirology, 2019, 24(9): 854-862.
Bates A & Hanson N. Aquatic exercise therapy, Elsevier-Health Sciences Division, 1996.
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会、生活習慣病の調査・統計:疾患で見る「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」、https://seikatsusyukanbyo.com/statistics/disease/copd/ 、参照日:2022年4月8日.
McNamara RJ, et al. Water-based exercise in COPD with physical comorbidities: a randomized controlled trial. Eur Resir J, 2013, 41(6): 1284-1291.